新進気鋭の若手歯科医師たちが描く、歯科衛生士の歩むべき未来とは

最終更新: 3月29日


≪特別対談≫ PHIJ代表 築山鉄平 × JDA代表理事 坂元彦太郎


日本歯科医学振興機構(以下:JDA)が主催する認定講習会を受講された、つきやま歯科医院専門医療クリニック天神の築山鉄平先生と矢野貴子さんにお話を伺いました。これからの歯科医療はどうあるべきか、そして歯科衛生士の未来について存分に語っていただきました。




―認定講習会を受講したきっかけを教えてください。


築山:正直言いますと、最初はよく分からなかったんですよね。どうやら歯科衛生士による麻酔が合法との解釈があるらしいって情報が飛び込んできて、「えっ?」って。でも、もしそれが本当であれば、私たちはずっと間違った解釈によって歯科衛生士の可能性を狭めてしまっていたのかもしれないと思いました。麻酔をやる・やらないということはとりあえず置いておいて、とにかく一次情報を取りに行きたいと思い受講を決めました。

当院では原点を磨くことをとても大切にしていまして、それが当院の掲げるビジョンと一直線上にあることが、まとまった組織を構築する一つのポイントです。JDAの主張が正しいのかどうかということは、原点である一次情報に触れてみなければ判断することはできません。技術的にできる・できないの議論の前に、とにかく話を聞いてみたいと思ったのが率直な感想です。


矢野:私は築山先生から最初にこの話を聞いたときに、とにかく驚きました。歯科衛生士によって麻酔ができるという未来にとてもワクワクしましたし、どんなレクチャーがあるのかもまったく想像できませんでした。麻酔=歯科医師と思っていたので、このような話を耳にする日が来るなんて予想していませんでしたので。受講したいという意思を築山先生にすぐ伝えました。当院には5名の歯科衛生士が在籍していますが、みんな同様の反応でした。


坂元:純粋に嬉しいです。受講された方からこういった生の声を聞けるのはとても励みになります。


築山:私は数年ほど口腔外科におりましたので、看護師が採血したり点滴したりという風景を日常的に見ていました。でも、過去には看護師が針刺し行為を行っていいのかという議論になったということも聞いていますので、現在の看護師に認められた業務というのは、実は当たり前ではないんですよね。一般の方の理解も含めて、きっと長い時間をかけて勝ち取った権利なのだろうと思います。そう考えると、歯科衛生士が麻酔を行うということに対して患者の理解を得るためには相当な努力を要するだろうなと思う一方、医科に見られるこのようなパラダイムシフトは歯科にも必ず起こるのだろうなと思わずにはいられません。


坂元:そうなんです、医科は歯科よりはるかに進んでいるんです。これは保健師助産師看護師法および歯科衛生士法の歴史を紐解くことができれば理解できることなんですが、歯科衛生士には看護師と同様に高い地位や認知を得るチャンスがあったんです。にもかかわらず、そのチャンスをつかみ取ることができなかった。結果、歯科は医科に70年以上後れを取ってしまった。さらに、医科は近年では特定行為にまで踏み込んで法改正を行うことに成功していますので、その差は広がるばかりです。


築山:この差を埋めるきっかけの一翼は、間違いなくJDAなんでしょうね。


築山 鉄平




―2020年8月1日に、FacebookにてJDAの立ち上げを告知しました。築山先生も即座にシェアしてくださいましたが、あの投稿を見てどのように思われましたか?


Facebookの投稿は238名もの方にシェアされ、賛否両論を巻き起こした


築山:もしかしたら私はとんでもないことを見落としていたのかもしれない、と思いました。これはブルーオーシャンだと直感しました。イノベーションはテクノロジーの進歩の先にあると思っている方が多いんですが、私はそうじゃないと思っています。視点を変えたときに生まれる気づきの破壊力って凄いんですよ。それこそが大きなイノベーションになるということがよくあります。気づきこそ、インテリジェントなイノベーションだと思っています。ですので、あの投稿を見たときは、ハンマーで頭をガツンと殴られたような衝撃がありました。

課題としては、この活動はまだまだ認知度が低いということです。今はイノベーターとアーリーアダプターにアクセスしている段階だと思いますので、早くアーリーマジョリティにアクセスできるようになることが重要ですね。


坂元:一刻も早くキャズムを越えなければならないということですね。できるかな?


築山:絶対できるでしょ(笑)


坂元 彦太郎




―活動の認知を阻むことがあるとすれば、どんな原因が考えられるでしょうか?


坂元:臨床観を基準に考えるからおかしなことになるんだと思うんです。まずはルールを知らなければ前には進めない。ルールあっての臨床ですから。歯科衛生士に麻酔ができるはずはない、それが臨床での慣例だ。そうやって経験だけを頼りに物事を判断していたら、たぶん正解にはたどり着けない。私も臨床が大好きだからこそ経験を否定するつもりはありません。でも、臨床と法の理解は切り分けて考えないといけないと思うんです。今回は麻酔という切り口だからこそ議論も活発になったという部分は否めませんが、私たちが議論したいのは麻酔の是非じゃない。私たちの問題提起は、もっと大きな枠で歯科衛生士法の可能性を考えるということであり、歯科衛生士の未来を歯科業界全体で真剣に考えるということなんです。


築山:今回の講習会で、私たちはいかにルールを正しく認識できていなかったかということを痛感しました。これは歯科業界全体における大きな気づき、大きなイノベーションだと思います。


坂元:歯科衛生士とはそもそも何なのか。歯科衛生士法が制定された当初、そこには予防に関する2つの条文しか存在しなかった。つまり治療行為はできなかったんです。その後歯科衛生士法が改正され、歯科診療の補助が追加された。これが間違いなく歯科医療のターニングポイントだったはずなんですが、今日までこの条文の可能性に向き合うことなく来てしまった。本来なら、麻酔に限らず、歯科衛生士の業務範囲は一気に広がり、多様な働き方を享受できていたはず。もちろん築山先生が指摘された通り、患者の理解を得ることなどハードルは多くありますが、挑戦もせずにその可能性を私たち当事者が否定してしまったら、いったい何のために法律は改正されたのだろうって思うんです。国が歯科診療の補助に込めた想いを読み取ること、そしてその先に描かれた歯科医療の未来に想いを馳せ、その未来をつかむために挑戦し続けること。それが私たちの責務なのではないだろうかと思っています。

医師と看護師の関係を見習うわけじゃないですけど、歯科医師も歯科衛生士も共に術者であり、互いを認め合い、支え合うべきです。歯科衛生士が術者として輝ける環境があってはじめて、歯科衛生士になりたいという人が増えてくると私は思います。歯科衛生士養成校での広報なんかももちろん大切だとは思いますけど、歯科衛生士として働く本質の部分をもっと輝かせないと、人材は減少する一方だと思うんです。


築山:私は歯科衛生士というのは内科的アプローチを実践するスペシャリストだと思っています。病院に行ったら薬を処方するじゃないですか。同じように、私たちは口腔衛生用品を処方するわけですけど、歯周病とかう蝕とかの病因論、目に見えない概念のようなものを患者がイメージできるようにアドバイスする必要がある。その点で、歯科衛生士の仕事は内科的な側面が強いと考えています。歯科衛生士業務の外科的なものだと、SRPや、今回話題になっている麻酔などが挙げられますが、本来の性質としてはかなり内科寄りだなと。プラス、歯科衛生士は教育者でなければならない。歯科は予防の重要度が高いですから、患者の協力を引き出すためには人間としての成熟度も歯科衛生士には求められる。さらに現代は、歯科医院外へも活躍の場を求められています。訪問診療や病院歯科など、これからの超高齢社会に自らを適応できる人材が必要です。歯科衛生士はこれからの社会において大きな可能性を持っている職業だと自信を持って言えます。

あとは待遇面の強化です。人は霞を食って生きていけるわけじゃないですから。理念ももちろん大切ですが、社会的地位の一つの象徴として給与を上げていって、理念と待遇が両輪で回ってくると、専門職として、例えば看護師や管理栄養士ではなく、歯科衛生士“に”なりたいという人が増えてくるんじゃないかと思っています。待遇面で職業を選択するという人はたくさんいるでしょうし、看護師を志した理由が待遇面であってもおかしな話ではありません。それは医科全体が看護師の社会的地位や待遇を向上させるために働きかけてきた結果であって、歯科はこれから同じことを成し遂げないといけないのだと思います。


坂元:私たちの世代でそれを成し遂げられなかったら、歯科衛生士は希少価値が高いから給与も高いといういびつな構造になってしまうと危惧しています。国民の健康を守るという価値ある仕事だからこそ給与が高いという真っ当な構造にしなければならないと思っています。


築山:それはJDAに強く期待するところですね。


坂元:前提として、歯科診療の補助の解釈を誤ったままでは、歯科衛生士業界全体の給与水準を高いレベルに引き上げていくことは難しいとも思っています。例えばですけど、優秀なフリーランスの方で高い給与水準を維持している方もいらっしゃいます。でも、歯科衛生士全員がフリーランスになるわけではないし、多くは歯科医院に雇用され働く方々だと思います。保険点数の問題もありますが、歯科衛生士ができる“と解されている”業務だけでは高い収益を上げることは構造的に難しい部分があって、その問題に風穴を開けるのが歯科診療の補助を正しく理解することだと考えています。


築山:歯科診療の補助を正しく理解することができれば、きっと歯科は新しい時代を迎えますね。


矢野 貴子




―講習会を受講後、考え方に変化はありましたか?


矢野:患者さんを診られる幅が格段に広がると感じました。当院は自由診療をメインとしており、患者さんにできるだけ痛みを与えないよう、歯科衛生士は無麻酔で、できる限り最小の回数で歯周初期治療を行っています。深いポケットの場合は、歯科医師に麻酔をお願いする形になります。歯科衛生士による麻酔が可能となれば、歯科医師の診断と指示に基づいて、重度歯周病の方でも一気に歯周初期治療を行うフルマウスディスインフェクションを歯科衛生士が行えるようになります。これは、治療期間の短縮だけではなく、患者さんの来院回数や負担軽減、次のステップとなる歯周外科での感染リスクを減らす、痛みを軽減できるという点などからも患者さんに大きなメリットがあると思います。

しかし、麻酔ができるからといって何でも許されるわけではなく、歯科医師との連携をこれまで以上に強化しながら私たち歯科衛生士の業務範囲を精査し、私ができる役割をしっかりと患者さんに伝えた上で日々の診療を行っていきたいと思います。講習会を受講して、チーム医療の重要性をより強く意識することができました。


坂元:むしろ、講習会を受講したからといって安易に麻酔ができるわけではないということが分かっていただけたのではないかと思います。また、歯科衛生士による麻酔をきっかけとして、歯科衛生士に任せることのできる診療の幅が広がれば、患者アポイントの効率性が向上するだけでなく、歯科医師・歯科衛生士それぞれがより専門性を発揮して自らに求められた業務に力を注げるようになります。歯科衛生士による麻酔という新しい取り組みによって生まれるこの側面は、既存の院内システムを抜本的に変革できるだけの可能性を持っていて、歯科医院の収益性向上にも大きく寄与すると考えています。


築山:私たち歯科医師だって、はじめて麻酔をするときは緊張しましたから。歯科医師という肩書きが麻酔をできるようにしてくれるわけじゃなくて、結局すべてトレーニングだと思います。


坂元:そうですね。法的に、歯科医師には認められているけれど歯科衛生士には認められていないことというのは確かに存在します。ですが、ひとりの人間として差別されるべきではないし、等しく研鑽を積めばそこに能力の差はないはずです。ですから、法的な問題を除いては、歯科医師には可能だけど歯科衛生士には不可能だ、というような差別的見解を持つべきではない。歯科医師だって、インプラントセミナーを受講したら明日からどんなケースでも埋入できると思う人はいないでしょう。歯科衛生士も同じで、講習会の翌日から麻酔できるなんて誰も思わないし、日々の鍛錬がそれを可能にしていくだけだと思うんです。講習会を受講された方にはしっかり伝わっているんじゃないかなと。


矢野:すごくモチベーションの上がる講習会でした。講習会の帰り道、すごく充実した1日だったねと同僚と盛り上がりました。たくさんトレーニングを積んで、早く痛みのない安全な麻酔ができるようになりたいと強く思います。


溝口 雄也




―今後のJDAに期待することや、アドバイスがありましたらお願いします。


築山:講習会って、WHATやHOWを学ぶものが多いですが、是非WHYにフォーカスし続けてほしいと思います。なぜこれをやるのかという原点、WHYを見失わなければ、きっとJDAはより一層強い組織になっていくと思いますし、歯科医療従事者の道しるべになれると思います。


矢野:歯科衛生士ってこんなにも幅の広い仕事なんだよ、可能性のある仕事なんだよと言ってもらえたことがすごく嬉しかったです。多くの歯科医師は歯科衛生士の価値を過小評価していると感じます。歯科衛生士はこの程度、給与もこの程度っていうのが現状だと感じます。歯科衛生士の離職率が高いのも、それが原因の一つになっているのかもしれません。私の友人も多くがこの業界から去っていきました。私じゃなくても代わりがいるとネガティブになって、私自身の手で患者さんを良くしたいという想いや能動的な行動にまで到達することなく、歯科医師の診療のお手伝いだけで終わってしまう。歯科衛生士ってそんな感じです。たぶん一般の方も歯科衛生士に対してお手伝いさんのイメージを持っているのではないかと思いますし、それをよく表しているのが、歯科衛生士と歯科助手の違いが分からず混同してしまっている方が多くいらっしゃる現状だと思います。

講習会を受講して、歯科衛生士の活躍の幅がどんどん広がっていく未来が現実のものとなりそうで、胸が高鳴りました。この感動を、くすぶってしまっている多くの歯科衛生士に届けてほしいです。すべての歯科衛生士にこの講習会を受講してほしいと心から思います。


築山:まずは歯科医師が変わらないといけないですね。現状を直視し、この問題に向き合う覚悟を私たち歯科医師が持つべきですね。





―最後に坂元先生、まとめをお願いします。


坂元:矢野さんもそうですし、私たちの活動を通じて多くの方が歯科衛生士の未来に希望を持ってくれたことを本当に嬉しく思います。WHYに徹底的にフォーカスし、歯科の新しい時代をつくるピースの一つに私たちJDAがなれたらと、決意を新たにしています。



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【略歴】


築山 鉄平

医療法人雄之会 つきやま歯科医院専門医療クリニック天神 院長

Perio Health Institute Japan 代表

Dental Square Japan 代表

日経BPのKEYPERSONとして特集された唯一の歯科医師。

日本国民の口腔健康価値の革新をミッションに、既存の医療の常識にとらわれず真の社会利益・患者利益を実現するための世界標準を超える歯科医療を実践し発信するビジョンを掲げる。


矢野 貴子

九州歯科大学歯科衛生士学院卒

医療法人雄之会 つきやま歯科医院専門医療クリニック天神 歯科衛生士

常に“なぜ”を大切にし、学ぶ姿勢を忘れない。目の前の患者さんへ感謝の気持ちを忘れず、ひとりひとりと向き合い最善を尽くすことを信条としている。


坂元 彦太郎

一般社団法人日本歯科医学振興機構 代表理事

医療法人セイラ会 ヒコデンタルクリニック 理事長

株式会社Medical BANANA 代表取締役

LEBM(法的根拠に基づく医療)という概念を歯科業界に浸透させ、より良い歯科医療のカタチをつくるため日本全国各地で講演を行っている。

「原因の究明と解決こそ臨床の真髄である」を座右の銘としている。


溝口 雄也

一般社団法人日本歯科医学振興機構 理事/広報責任者

株式会社岡部 統括部長

JDA理事の中で唯一の営業マンで、広報活動の総責任者。

歯科メーカーで培った経験を活かし、歯科医師とは異なる視点での広報戦略策定と遂行を一手に担っている。

Photographer: Teruo Kumano

Editor: Yuya Mizoguchi

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