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皆さんの歯科医院に設置しているAEDを最後に点検したのはいつだろうか?
点検の担当者を決めて毎日点検・記録を行う必要があることはご存知だろうか?
バッテリーや電極パッドの使用期限は把握しているだろうか?
今回のコラムではAEDを日常点検する重要性と点検項目についてお話しする。ハッとされた方は是非読み進めて頂きたい。
欧米では1990年代より自動体外除細動器(Automated External Defibrillator, AED)が普及しはじめ、日本でも航空機への設置をきっかけとして、2004年7月に非医療従事者によるAEDの使用がはじめて許可された。以来、駅や空港、学校、官公庁などの公共施設への設置が進んでいき、人口に対するAED設置台数は他国と比較して引けをとらない水準にまで達した。
しかし、一般人により目撃された突然の心停止のうち、AEDを用いて電気ショックが実施されたケースはまだまだ少ないのが現状である。
総務省公表の「令和3年版 救急・救助の現状」によると、令和2年中に一般市民が目撃した心原性心肺機能停止傷病者は25,790人であり、そのうち一般市民が心肺蘇生を実施した傷病者数は14,974人(58.1%)であった。
ここで、1ヶ月生存者数(1ヶ月以上生存できた人数)と1ヶ月社会復帰者数(1ヶ月以内に社会復帰できた人数)の2点に目を向けてみたい。何かしらの心肺蘇生を実施した場合、1ヶ月生存者数は15.2%、1ヶ月社会復帰者数は10.2%と、心肺蘇生を実施しなかった場合と比べるとそれぞれ1.9倍、2.7倍の差があることが見て取れる。心肺停止傷病者を発見次第、心肺停止の認識と119番通報、そして1次救命処置を速やかに実施することの重要性は論を待たない。
では、AEDの有無という視点で資料を見てみたい。
一般市民がAEDを使用し除細動を実施した傷病者数はというと、なんと1,092人でわずか7.3%だった。中にはAEDの非適応であった傷病者もいただろうが、とはいえ7.3%は少ないと言わざるを得ない。15,000人に対する心肺蘇生において、わずか1,100人にしかAEDが使用されなかったという驚きのデータである。
下記の数値が示す通り、AEDの有無が救命率に大きく関わっていることがはっきりと分かるだろう。
【1ヶ月生存者数】
AEDなし 2,273人/14,974人(15.2%)
AEDあり 581人/1,092人(53.2%)
※3.5倍もの差がある
【1ヶ月社会復帰者数】
AEDなし 1,530人/14,974人(10.2%)
AEDあり 479人/1,092人(43.9%)
※4.3倍もの差がある
「令和3年版 救急・救助の現状」総務省
https://www.fdma.go.jp/pressrelease/houdou/items/211224_kyuuki_1.pdf
なぜ、たった7%の傷病者にしかAEDが使用されなかったのだろうか?
AEDを使用しなかった理由としては、
・AEDの非適応であった
・AEDが近くになかった
・AEDがどこにあるのか分からなかった
・AEDを使用する意思や能力がなかった
など様々な理由が考えられるが、医療機関ではそれらの理由でAEDが使用されないことなどあってはならない。加えて、いざAEDを使用する時に、その管理不備により性能を発揮できないなどの事故を防止するために、日常の点検を行うことも重要である。
2022年3月、AEDの点検に関するニュースが報じられた。
2020年に心肺停止の80代の男性に対して救急隊が心肺蘇生を行ったが、救急車に載せていたAEDのバッテリー不足によりショックが継続できなかった事例が発生している。AEDの心電図はショックが必要な波形を示していた。その後、男性は死亡しているが消防側は死亡との因果関係は認められなかったとしている。
消防の説明によると、男性の妻からの119番通報を受け救急車が出動し、救命救急士が男性の自宅で心肺蘇生を実施した。その際AEDによるショックを4回行ったが5回目に充電不足のためAEDが作動せず予備のバッテリーも充電できていなかったという。当日の朝に隊員がバッテリーを確認したが、バッテリーの残量を見誤ったとのことだった。
日常点検の重要性を真剣に考え直す事例であった。
https://news.yahoo.co.jp/articles/2dfdf76d2847bb67a5752cf0973c29e890477110
AEDは薬機法で高度管理医療機器及び特定保守管理医療機器に指定されており、適切な管理が行われなければ人の生命及び健康に重大な影響を与える恐れがある医療機器である。AEDに関する厚生労働省からの通知は以下の通りである。
1)平成16年7月1日付け厚生労働省通知
「非医療従事者による自動体外式除細動器(AED)の使用について」
https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-10802000-Iseikyoku-Shidouka/0000111659.pdf
2)平成21年4月16日付け厚生労働省通知
「自動体外除細動器(AED)の適切な管理等の実施について(注意喚起及び関係団体への周知依頼)」
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11120000-Iyakushokuhinkyoku/0000091457.pdf
3)平成25年9月27日付け厚生労働省通知
「自動体外除細動器(AED)の適切な管理等の実施について(再周知)」
4)平成30年12月25日 一般財団法人日本救急医療財団
「AEDの適正配置に関するガイドライン」
https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/iryo/kyuukyuu/aed.files/aed_guideline.pdf
上記2)、3)の「自動対外式除細動器(AED)の適正な管理等の実施について」では、点検担当者の配置と役割について通知されている。AEDの設置者(施設管理者)は設置したAEDの日常点検を実施するために点検担当者を配置し、日常点検を実施することとされている。
点検担当者の役割は、以下の項目である。
1)日常点検の実施
AED本体のインジケーターのランプの色や表示により、AEDが正常に使用可能な状態を示していることを日常的(毎日)に確認し記録すること。
2)表示ラベルによる消耗品の管理
製造販売業者から交付される表示ラベルに電極パッド及びバッテリーの交換時期を記載し、記載内容を外部から容易に確認できるようにAED本体又は収納ケース等に表示ラベルを取り付け、この記載を基に電極パッドやバッテリーの交換時期を日頃から把握し、交換を適切に実施すること。厚生労働省の通知を受けて、各都道府県では県内の様々な公共施設を対象にAEDの管理状況について行政監査を行っている。
その中でも今回は点検頻度、点検担当者配置の有無、点検記録の有無について注目した。
以下に結果(平均値)を示す。
点検頻度
毎日点検している施設の平均は38.8%であり、その他の施設では不定期の点検や月1回、年1回の定期点検など、日常点検とはかけ離れたものであった。
点検担当者配置の有無
配置あり:73.2%
配置なし:24.6%
点検記録の状況
記録あり:44.1%
記録なし:55.3%
であった。
点検をしなかった理由は、
●点検の必要性について認識がなかったため
●設置者から日常点検についての指示がなかったため
●点検の方法が分からなかったため
●保守委託による点検で十分であると認識していたため
●無人の施設であった
などであった。
私の住む熊本市においては、78.0%が毎日の点検を行っておらず、点検結果の記録が行われていないAEDは52.2%にも上った。
https://www.city.kumamoto.jp/common/UploadFileDsp.aspx?c_id=5&id=3937&sub_id=25&flid=111317
日常点検項目
1)日常点検の実施
AED本体のインジケーターランプの色や表示を確認する。
確認後は付属のチェックリストに記載する。
2)表示ラベルによる消耗品の管理
電極パッドの交換時期(3年)及びバッテリーの交換時期(4年)等を表示ラベルに記載する。
表示ラベルは本体または収納ケースに取り付け日頃から確認できるようにしておく。
3)消耗品交換時の対応
電気パッドやバッテリーを交換した際には添付されている表示ラベルやシール等を使用し、次回の交換時期を記載してAEDに取り付け情報を更新する。
我々医療従事者の責任として、いざという時に常に備え準備をしておく義務がある。何も起こらないように日頃から予防しておく事が最も重要だが、偶発症や突然の心停止は予期せず起こる。その時に慌てず冷静に対応するためには、常日頃から不測の事態を想定した訓練や、偶発症発生時の対応マニュアルを作成し、一人一人の役割を明確にしておく必要がある。その中でAEDなどの器材の日常点検やメンテナンスは必須である。
皆さんの歯科医院に設置しているAEDを最後に点検したのはいつだろうか?
点検の担当者を決めて毎日点検・記録を行う必要があることはご存知だろうか?
バッテリーや電極パッドの使用期限は把握しているだろうか?
これを機に、AEDの管理を院内全体で見直してみてはいかがだろうか?
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