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昨今、動物病院のホームページやSNSなどで、歯科医師によるペットの歯科治療や、歯科衛生士によるペットのスケーリングなどを見かけることが多くなった。
果たしてこれらの行為は合法なのであろうか?
人間に対する医療に従事する者、つまり医師や看護師、歯科医師や歯科衛生士を所管するのは厚生労働省である一方、動物に対する医療(医事という)を所管しているのは農林水産省であり、獣医師免許は農林水産大臣により交付される国家資格である。
まずは獣医師法(昭和二十四年法律第百八十六号)から見ていきたい。
飼育動物の診療や保健衛生の指導など、獣医事に関わる業務は獣医師の独占業務であって、獣医師以外の者が飼育動物の医事に関わることは違法である。
ここで、歯科医師法と歯科衛生士法を簡単に振り返りたい。
歯科衛生士法には明確に法の対象が「ヒト」であると記載はないものの、歯科医師の指示のもとに業務を行う必要があり、その歯科医師が対象とするのは「国民」つまり「ヒト」であるため、歯科医師や歯科衛生士がいわゆるペットに対して医療行為を行い得るはずもなく、明確に獣医師法違反である。罰則は「二年以下の懲役若しくは百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」となっている。
結論としては、歯科衛生士は犬猫のスケーリングを行うことはできない。「違法」である。これは自らが飼育しているペットであっても、だ。
あらためて書くことでもないが、歯科医師や歯科衛生士の国家資格を有する者はその矜持をないがしろにせず、全身全霊で「ヒト」に向き合っていただきたい。それが獣医事に従事されている獣医師への敬意というものだろう。
歯科にまつわる国家資格を持っているからと、安易に獣医事に関わる歯科医療従事者がいるとすればこれは問題である。ヒト以外の動物であったとしても口腔に関わることであれば、歯科医師と歯科衛生士は介入可能と考えているなら大きな間違いだ。そして、知らなかったで済まされることではない。
私たち医療従事者は、法律を正しく理解しなければならない。正しい医療というのは、常にルールの上に成り立つものだ。
ところで看護師や准看護師、歯科衛生士などは、「診療の補助」として医行為を行うことが法律で認められているわけだが、獣医事の世界ではどうなっているのだろうか?
2019年6月21日に、「愛玩動物看護師」を国家資格とする法案が参議院において全会一致で可決、通過した。
施行日は、2022年5月1日となっている。
農林水産省の発表している愛玩動物看護師の業務範囲イメージを紹介する。
手術やX線検査、診察に基づく診断などの診療行為は従来通り獣医師のみ実施可能であるが、「診療の補助」として獣医師の指示のもと、採血、投薬、マイクロチップ挿入、カテーテルによる採尿などが愛玩動物看護師により実施可能となる。
一方、爪切りや歯磨き、しつけやセラピー活動などは動物医事行為に当たらず、資格を持たない者でもこれまで通り可能である。
ここまで読まれて、歯科関連法令に詳しい方はお気づきかと思うが、「獣医師と愛玩動物看護師」「歯科医師と歯科衛生士」の関係は相似している。
今から約1年後に愛玩動物看護師法が施行されるわけだが、おそらく「診療の補助」を適切に解釈し業務の幅を広げてくるだろう。昨今のペットブームも追い風となり、人気の職業になるのではないかと予想している。
肝心の歯科衛生士法はどうだろうか?愛玩動物看護師法よりも74年も早くに施行された歯科衛生士法の正しい法解釈が進まないことは、私たち歯科医療従事者にとって不利益なことではないのだろうか?歯科衛生士法における「診療の補助」の認識が遅々として進まないことは、患者にとって不利益なことではないのだろうか?
「診療の補助」としての医行為を歯科衛生士が行うのには、患者の理解が求められる。患者の理解を得るのは簡単なことではないかもしれない。でもそれは歯科に限ったことではない。医科も同じ課題に直面し、丁寧に患者の理解を得ながら看護師の業務範囲を拡大し今がある。きっと愛玩動物看護師も同様(この場合は飼い主の理解ということになるだろう)に進んでいくのだろう。
歯科衛生士も今こそ前へ進むべきだ。看護師による「診療の補助」が患者にとって有益であるように、歯科衛生士による「診療の補助」が患者の利益となる未来もきっと訪れる。歯科医師が歯科衛生士を信じて任せ、歯科衛生士はその期待に応えるために研鑽を積む。歯科医師と歯科衛生士の強い信頼関係と弛まぬ努力があってはじめて、業務拡大の可能性が見えてくる。
輝く未来は突然訪れるものではなく、自らの力で勝ち取るものだ。
ひとりでも多くの歯科医療従事者に関連法令への関心を高めてもらい、自らの仕事と未来の在り方を考える一助となれば幸いである。
≪現在、獣医事に関わっている歯科医療従事者の方へ≫
繰り返しますが、歯科にまつわる資格のみで獣医事を行うことは違法です。どうしても飼育動物の歯科医事に関わりたいということであれば、法律に反することなく、獣医師もしくは愛玩動物看護師の資格を取得し行ってください。
法を無視した医行為は許されることではありません。
⬇ JDAの活動についてもっと知る ⬇
https://www.japan-da.com/certification
【引用】
愛玩動物看護師法案(参議院HP)
https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/gian/198/meisai/m198090198018.htm
愛玩動物看護師の業務範囲の考え方・イメージ(農林水産省HP)
https://www.maff.go.jp/j/syouan/tikusui/doubutsu_kango/attach/pdf/index-3.pdf