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医療の世界に『絶対』はない。
日々、患者ひとりひとりに全力を尽くすことは当然であるが、医療現場において絶対ということは有り得ないし、何が起こるかわからない。
万が一医療事故が起こってしまった場合、損害賠償請求も高額になることが多い。
歯科医院において、歯科医師が賠償責任保険に加入しているケースは多いだろう。では、歯科衛生士や歯科助手による業務中の事故を補償する保険への加入はどうだろうか。
補綴物の調整時、誤って口腔内に落としてしまい、患者が誤飲した。
高齢者の印象採得時、印象材が咽頭に流れて誤嚥した。
スケーリング時にチップが破損し、破折した金属片を患者が誤飲した。
どれも起こり得る可能性のある事例だが、一歩間違えば大事故につながる。
歯科衛生士が業務中に患者に怪我を負わせてしまった場合、法律上の賠償責任が発生することがある。通常は責任者である院長が患者と話し合い歯科医院として賠償責任を負担するが、歯科衛生士本人の賠償責任を追及されることもある。その場合は、本人が患者と話し賠償責任を負担しなければならない。
それが医療に携わる者の責任であり、だからこそ常日頃から研鑽を積み、事故が起きぬよう技術を磨いていかなければならないのである。
冒頭にも述べたが、医療の世界に『絶対』はない。
持てる技術のすべてで患者と真剣に向き合っても、不幸な事故は起こることがある。
もし患者の身体に傷害を発生させてしまった場合、負うべき賠償責任を補償してくれる保険をいくつかご紹介しておく。
まず、コ・デンタルスタッフ自身で加入できる保険を2つご紹介したい。
1. 『歯科衛生士賠償責任保険制度』 東京海上日動火災保険株式会社
2. 『歯科衛生士保険』 メディカル小額短期保険株式会社
1. 歯科衛生士賠償責任保険制度
https://www.jdha.or.jp/outline/hoken.html
この保険に加入するためには日本歯科衛生士会への入会が必要となる。
令和元年時点での日本歯科衛生士会の入会状況は歯科衛生士全体の20%程度にとどまっており、日本歯科衛生士会に所属している歯科衛生士でこの賠償保険に加入している割合はさらに少なく、15%程度となっている。
日本歯科衛生士会は入会金2,000円、年会費7,000円かかるが、この保険は年間の保険料5,000円で対人の事故に対して補償限度額が1億円と大きいのが特徴である。業務遂行に起因する他人の財物損壊や、人格権侵害による賠償責任にも対応している。
2. 歯科衛生士保険
https://www.medic-office.co.jp/dental/
この保険は歯科衛生士だけでなく、歯科助手や受付も加入できるのが特徴である。
補償の限度額は800万円と歯科衛生士賠償責任保険に比べて少ないが、歯科医院の機械を破損させてしまった場合の補償や、個人情報漏洩への補償、弁護士相談費用の負担など補償内容が幅広い。自身がインフルエンザなどの感染症に罹患した場合の見舞金制度もユニークだ。
一方で、歯科医師が加入する賠償保険に付帯して歯科衛生士にかかる損害賠償をカバーできるものもある。
損害保険ジャパン株式会社の『医師賠償責任保険』に『医療従事者賠償責任保険』(包括契約)を付帯するやり方だ。
この保険の特徴は、医療施設に勤務するすべての医療従事者(過去に勤務していた者も含む)が補償対象者となるため以下のようなメリットがある。
①加入医療従事者の署名・捺印などが不要
②付保漏れ・更改漏れの心配がない
③退職した医療従事者も対象となる
付帯した保険料も、1事故2億円の補償をつけても年間3,287 円 (歯科医院の場合)と割安なのも魅力である。
これらの保険はすべて、歯科に勤務するスタッフを守るものであるが、注意しておかなければならないことがある。どの保険も、歯科衛生士、歯科助手それぞれの業務範囲を逸脱した行為に関する賠償事故は補償対象外ということである。
歯科医師は歯科衛生士に業務を指示する際、しっかりと法に則った指示ができているだろうか。それは本当に歯科衛生士に認められた業務だろうか。
歯科衛生士は歯科医師の指示をしっかりと理解し、診療の補助をしているだろうか。診療の補助とは何たるかを正しく理解できているだろうか。
医療にも、保険にも、守るべきルールがある。法を正しく理解し、それに則り行動することが、いかに大切かを改めて考えていただきたい。
もし明日、あなたの身に高額な賠償責任が降りかかったとしたら。
そのとき、賠償保険に加入していなかったとしたら。
知らなかった、では済まされないのである。
私たちJDAは、歯科医療における法の正しい解釈を広く伝えていくと同時に、『権利』と対となる『責任』についても問題提起をしていきたいと考えている。
歯科衛生士はたくさんの人の健康と豊かな人生をサポートできる素晴らしい仕事である。一方、重責を担う仕事でもある。これはれっきとした国家資格だ。
浸潤麻酔“だから”じゃない。知識や技術の不足した歯科衛生士が行えば、印象採得であっても患者を死に至らしめる可能性はある。診療補助を正しく理解し、歯科衛生士が自身の能力を客観視できる力を身につけ、歯科医師が適切な指示を行うことで、こういった事故は限りなく回避することができる。
賠償保険について今一度見直してみてほしい。
歯科衛生士が安心して患者と向き合える、『責任』と向き合える環境を整えることで、歯科衛生士の活躍の場はもっと広がっていくと信じている。
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