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『歯科衛生士の業務のあり方等に関する検討会』への私見【前編】

2024年12月26日

代表理事 坂元彦太郎

令和6年12月25日に東京都港区・航空会館ビジネスフォーラムにて「歯科衛生士の業務のあり方等に関する検討会」が厚生労働省主催のもと開催された。

私たち日本歯科医学振興機構も傍聴のため出席したので私見を交えて書いていきたい。


厚生労働省歯科保健課長補佐の大坪氏より資料を用いて歯科衛生士の現状と今後の検討の進め方について説明の後、議題へと進んだ。

主な議題は歯科衛生士による歯科診療補助、特に「局所麻酔行為について」だ。


思い起こせば感慨深いものがあるので少し振り返りたい。令和2年8月に歯科衛生士による麻酔行為について私たち一般社団法人日本歯科医学振興機構が取り上げた際、凄まじい数の反響があった。多くの方は私たちの活動を応援するものであったが、中には「やらせていいわけがない」「歯科衛生士ごときに・・」などネガティブな声があったことも事実だ。某県の歯科医師会長からは私のクリニックに電話があり、「歯科衛生士に麻酔をさせていいわけがないだろう!君がやっていることは詐欺だ!!」とまで言われた。


これらネガティブな声の全ては【無知】と歯科衛生士は歯科医師より下でなければならないという【偏見】に基づいていることは明白であった。


この他にも私たちの活動に協力する、とある大学の歯科麻酔科の歯科医師へ日本歯科麻酔学会理事から学会からの除名を仄めかす圧力など本当に様々なことがあった。しかし、屈することなく前進し続けた結果、このような大きなうねりを作り出すことができたことに一定の達成感を感じている。



私たち日本歯科医学振興機構が行う講習会の講師に日本歯科麻酔学会の専門医や認定医がいないことを指摘する人がいるが、それは日本歯科麻酔学会からの圧力でとある歯科麻酔学教室が排除されたのであって、私たちが日本歯科麻酔学会を無視していたわけではなく、敬意と尊重を持って接していたことを関係者の名誉のために申し添えておく。その上で、今回、日本歯科医師会と日本歯科麻酔学会が組んで講習を行えば意義のある講習会が開催できると考えているのであれば支離滅裂であり利得競争とのそしりを免れないだろう。


さて話を戻すが、今回の検討会の趣旨について厚生労働省医政局歯科保健課は以下のように資料に記載している。


【趣旨】近年、少子高齢化の進展や歯科疾病構造の変化により我が国の歯科保健医療を取り巻く状況は大きく変化し、歯科衛生士の活躍の場は、歯科診療所だけではなく、病院や在宅等にも広がっている。

こうした状況を踏まえ、国民の多様なニーズに応え得る歯科衛生士の人材を確保するため、

歯科衛生士の業務のあり方や歯科衛生士の需給等に関して具体的な検討を行うこととし、歯科衛生士の業務の在り方に関する検討会を開催する。


歯科衛生士の業務、とりわけ歯科診療補助について参加者により議論が行われたわけだがその話のほとんどは「歯科衛生士による局所麻酔行為について」であった。

この検討会への参加者は以下の図の通りで、厚労省医政局歯科保健課からは小嶺祐子課長、大坪真実課長補佐、倉本絹美主査、座長は福田氏が務めた。



ではなぜ、特に「歯科衛生士による局所麻酔行為」についての議論が行われることになったのであろうか?

いくつかのポイントがあるので順に整理していく。


①今回の資料にも使用され、構成員にも名を連ねている品田佳世子東京科学大教授の令和3年度厚生労働科学特別研究事業「歯科衛生士の業務内容の見直しに向けた研究」から引用すると、歯科衛生士の浸潤麻酔行為はSRP時で3.4%、SRP時以外で2.8%に留まっていた。

令和4年に実施された全国の歯科衛生士養成施設を対象とした調査においては浸潤麻酔法をはじめとする局所麻酔に関連する項目の講義時間は30分未満である養成施設が多かった。また、浸潤麻酔に関する実習について、相互実習または患者に実施していた養成施設はなかった。



つまり学校教育として充実していないが、実際には局所麻酔を行っている歯科衛生士の存在が懸念点として挙げられているわけである。



②次に令和6年の厚労省の通達である。これは昭和40年に厚労省(当時は厚生省)通達で歯科衛生士による麻酔行為を歯科診療の補助として認める旨の通知は現在でも見解が変わっていないのかどうかを日本歯科医師会長が厚労省に尋ねた質問への回答である。




その回答が「貴見のとおり」である。


つまり、歯科衛生士は歯科医師が諸般を判断した上で歯科医師の指示のもと、歯科診療の補助として麻酔ができるということである。

このことに異を唱える歯科医師や歯科衛生士が一定数いることは知っているが、これは歯科衛生士法が昭和30年に改正された時からそうだった訳で、「そんな訳はない!法律違反だ!!」という者は自身の無知を恥じたほうがいい。また、納得がいかないのであれば歯科衛生士の業務範囲を狭めるべく政治活動をされたらいかがだろうか?


厚労省からこのような返答があった後すぐに日本歯科医師会が以下の文書を歯科医師会員向けに出したことは興味深い。




上記文書は「歯科衛生士の麻酔行為が無条件に解禁になったわけではない」との注意喚起のため、会員のことを思って出されたことは理解できるが、



万一不測の事態が生じた際には、基本的には指示を行った歯科医師が責任を負うことを十二分に留意して慎重に対応を判断されたい。



この文章は完全に誤りである。日本歯科医師会は法律に関連する文書を出す際に法律家によるリーガルチェックをおこなっていないのであろうか?

医療事故を起こした場合は、基本的にはその医療事故を起こした者が刑事・民事両方の責を負う。もちろん管理責任として指示を行った歯科医師がその責を問われることもあるため慎重な対応が要求されることは当然である。

注意喚起は必要であるがミスリードがあってはならないと、この文書を作成した関係者に強く進言する。


③最後に歯科衛生士による浸潤麻酔行為について、日本歯科医師会からの疑義照会に対する厚生労働省の回答を受け、「日本歯科医師会長・日本歯科医学会長・日本歯科衛生士会長の連名で医政局長宛に、必要な体制整備や教育の見直しに関する要望が出された。」



日本歯科医師会・日本歯科衛生士会・日本歯科医学会が連名でこのような要望を厚労省に出していたことにはいささか驚いた。

先述の歯科医師会から厚労省への質問は「我々歯科界は法律を全く理解していませんでした。厚労省からの通達の意味も理解できていません」という証左である。

昭和30年の歯科衛生士法改正も、昭和40年の厚労省通達もまったく理解できていなかったわけである。そこに来て「歯科衛生士の麻酔行為」が違法でないことを知ると、「体制整備・教育の見直し」を厚生労働省に要望し、講習会の開催を企画し始めたのである。この業界の厚顔無恥にはほとほと呆れる。


話がそれたが先述した①〜③に加え、厚労省の資料には『近年、歯科衛生士による浸潤麻酔行為について、研修・認定を行う団体がでてきており、関係団体からの疑義照会や要望、また関係学会による見解が出されており、歯科衛生士が安全に浸潤麻酔行為を行うために必要な体制整備、教育の見直し等が要望されている。』とあるため、その発端が私たち日本歯科医学振興機構の活動であることは疑いようのない事実である。


ここまでがこの検討会開催のキッカケであり、基礎情報である。


(中編へ続く)


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あなたが変われば、
歯科は変わる。

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