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前編ではこの検討会開催までの経緯を書いた。
中編では企画・立案されている研修の中身について触れていく。
( 前編はこちら https://www.japan-da.com/news-1/eiseishigyoumu1 )
厚生労働省の示す現状と課題及び対応方針(案)については以下の通り。
前編でも記載した通り、歯科衛生士養成課程での歯科麻酔学教育は充実していない。そのため、日本歯科医師会・日本歯科衛生士会・日本歯科医学会からの要望を受けて厚生労働省として必要な具体的な研修内容を示すとのこと。
官民が一丸となり歯科医療の安心安全のための施策を考え、整備していくということはとても素晴らしいことだと筆者も強く賛同する。
しかし、資料のここらあたりから雲行きが怪しくなってくる。
歯科衛生士が行う歯科診療の補助については歯科医師が個別に判断し指示を行うべきもので、歯科麻酔後の処置の種類によって可否が分かれる類のものではない。(SRP時の麻酔は合法だが、抜歯時の麻酔は違法だ!というような解釈は法的に誤りである。)
ここらあたりの誤解については昭和61年に日本歯科医師会(日本歯科医学会作成)が出した「歯科衛生士の業務範囲についての調査報告書」が元となっていると考えられるが、これには明確な誤りがあるためここで指摘しておく。
また、詳述は避けるが歯科診療の補助として歯科衛生士が精密印象や咬合採得をすることも場合によっては可能であることも申し添えておく。
逆に言うと歯肉炎や歯周炎に罹患した患者へのスケーリングやSRP、SPTが全ての歯科衛生士に認められた行為ではないということも同時に知っておかなければならない。
(※歯科関連の法律に疎い方には意味不明に感じるだろうが、プロとしてルールを知っておくことは義務であると気付いた方は私たちの講習会を受講することを勧める。)
※知識と技術と経験を備えた歯科衛生士に対して歯科医師が諸般を鑑みて指示を行うことが必要であることは言うまでもなく、全ての歯科衛生士に等しく個別の歯科診療補助行為が認められているわけではないので留意されたし。
日本歯科医師会や日本歯科衛生士会が厚生労働省を後ろ盾に「歯石除去の際に限定した浸潤麻酔研修会」を企画立案すること自体に問題はない。
だが今回の動きによって「歯石除去に限定して歯科衛生士は麻酔行為を行える」というような誤解を招かないように細心の注意を払っていただきたい。
上の資料は研修の内容に関わる箇所であるが、私たちの講習会の内容と非常に近しくとても丁寧に考えられていると評価した。
ただ一点気になる箇所がある。
研修の受講にあたって一次救命処置(BLS)講習会の受講を要件とするという点だ。
BLSを学び習得する歯科衛生士が増えることはとても喜ばしい。
歯科麻酔後は最も偶発症が起こりやすくなることは周知の事実であるためここに着目してくれたことは評価したい。
実際、AHA(アメリカ心臓協会)公認BLSプロバイダーコースを開催している団体は私たち日本歯科医学振興機構の認定講習会を背景に歯科医療従事者の参加者が増加していることを公式に表明しているので事実として記載しておく。
ただし、
一次救命処置(BLS)は全ての医療従事者が持ち合わせていなければならない知識と技術である。誰が麻酔をするから、という理由でBLSが必要となるわけではない。医療従事者であれば不測の事態が起こった際はチームダイナミクスで一丸となって救命に当たることが当然の義務なのである。
チームとしてBLSが行えないのであれば、そのクリニックは歯科麻酔はおろか、歯科治療を行う資格すらない。
この際だから書かせてもらうが、歯科治療は窒息のリスクとも隣り合わせである。
印象材やロールワッテ、クラウン、抜去歯牙など口腔を出入りするすべての物が患者の命を奪う可能性がある。
しかし、歯科医師・歯科衛生士は座学でハイムリック法や背部叩打法を学生時代に学んだことはあっても、実習を行っている学校は私の知る限りない。
つまり異物除去の実習やシミュレーションを行っていない歯科医療従事者は不測の事態が起こった時に救命を行うことができない。注意義務(予見義務・回避義務)違反として法の裁きを受けることは明白である。
つまりBLSを履修していない者は歯科臨床の場に立つ資格がないのだ。
常々講習会で話していることだが、この国の歯科医学教育は穴が多すぎる。
法的に義務とすることができないことは承知しているが、これを機にすべての歯科医療従事者にBLSを身につけるような施策を厚生労働省と歯科医師会が一体となって行ってはいかがだろうか?
歯科麻酔を行うことができるというアドバンスな歯科衛生士を育成する前に、歯科医師会には公益社団法人として国民の命と健康を守るためのベースラインを底上げする施策を行って欲しい。
勿論、アドバンスな歯科衛生士の育成を目指すことには諸手を挙げて賛成する。
次に、計画されている研修内容の概要についての資料を添付する。
現在考えられているこの研修会への参加条件はBLSコースを受講した歯科衛生士である。
研修内容は講義が12時間30分、実習が5時間30分、計18時間である。
となれば計3日間の日程で修了となる研修会であるということが分かる。
一部 Eラーニングも可とされているためリアルでは1〜2日間の日程で終えることもできるだろう。
『歯科衛生士が浸潤麻酔行為を実施するために必要な研修』と題する研修会がたったの数日で終わる内容で本当に大丈夫なのだろうか?
医療や人命を甘く考えてはいないだろうか?
これについては構成員の議論の中にも挙がっていたので【後編】で詳述する。
なぜとりわけこの研修の時間的ボリュームについて取り上げるかというと、以下の見解を日本歯科麻酔学会と日本歯周病学会が連名で出しているからである。
日本歯科麻酔学会と日本歯周病学会が連名で出した見解には『局所麻酔に関する知識・技術は数日の講習会で得られるものではない』と明記されている。
また、今からちょうど1ヶ月前の令和6年11月26日に日本歯科麻酔学会は会員に向けて以下のメールを送っている。
今回の検討会の構成員には日本歯科麻酔学会理事の立浪氏、日本歯周病学会常任理事の荒川氏がいるが令和2年の両学会の見解と今回の検討会との齟齬についてどのように説明するつもりだろうか?
昭和30年に歯科衛生士法が改正されてから約70年。
70年間も歯科界は歯科にまつわる法律を理解せずに来た挙げ句、我こそが歯科をリードする日本歯科医師会や日本歯科麻酔学会だと跋扈する。
どの団体も学会も行動を起こさないから私たち日本歯科医学振興機構が生まれたことに気付き猛省して欲しい。
ちなみにこの際だから書いておくが、私たち日本歯科医学振興機構が行っている認定講習会は歯科衛生士に麻酔を行わせるために開催しているわけでは決してない。私たちの団体を指して「わずか一日の講習で歯科衛生士が麻酔できるはずがない」と揶揄する声が時々聞こえるが、そもそもそのような発信・発言、活動をしたことは今までただの一度もない。悔しくもあったが反論もせずただ静観していただけだ。
確かに歯科診療の補助として知識と技術と経験を積んだ歯科衛生士に対して歯科医師が歯科診療の補助として歯科麻酔を指示することは可能である。
しかしそれを実現するためにはかなりの時間と努力を要するのは当然のことであるし、院内全員でシステムの構築、チームダイナミクスなど様々なことを整備する必要がある。
歯科に関連する法律に疎く、私たち日本歯科医学振興機構の講習会に参加したことのない人々が憶測で勝手に色々言っているだけである。
日常、歯科医師の多くは治療を行っているだろう。
では口腔の健康が全身の健康に繋がっているという事実を前に、誰が全身につながる口腔の健康を守っているだろうか?
迷わず言える『歯科衛生士だ!』
私たちは歯科衛生士の本当の魅力を伝えるために歯科医師・歯科衛生士を対象に講習会を行ってきた。現在までに受講者は6,700名を超えている。
日本歯科医師会や学会など他の団体が、歯科医療を底上げするため、真の歯科医療の魅力を伝えるために活動してくれるなら心から歓迎するし、協力も惜しまない。
しかし他の団体を貶し、国民のための歯科医療を利権のように捉え言動不一致を続けるのであれば誰からの支持も得られないことを肝に命じて欲しい。
日本歯科医師会、日本歯科衛生士会、もっと頑張ってくれ!!
(後編へ続く)